早いもので2024年も年末。そろそろ年末スペシャルの時期だなぁとぼんやり思っていたところ、ライナー編集部から「イケオジ俳優を見られる映画を!」という熱いメッセージが届いた。なるほど、私自身もイケてるかどうかはともかくオジではあるので、40代後半から50代ぐらいのかっこいいオジサンが見られる映画を集めてみよう。しかしオジサンというイメージで思い浮かべた俳優が軒並み70代で、まず私の中にある「オジ」の印象を更新するところから始めた。いわゆるイケメンではなく渋めの人がいい、という編集部の希望も踏まえて選んでみた俳優を紹介したい。(映画ライター・ケン坊)
マッツ・ミケルセン
マッツと言えば007やドクター・ストレンジの悪役、というイメージが強く、あまり感情を表に出さず、何を企んでいるかわからない人物を演じることが多い。ドクター・ストレンジのカエシリウスはメイクも相まってもはや誰かもわからないような顔であった。ここではそんな彼の隠れた名演を紹介してみようと思う。
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』
確率論を持ち出して偶然を否定するような話で、鉄道の事故で妻を失った軍人が、その事故を意図的に起こしたと目されるギャング団に復讐するという物語。マッツは寡黙で熱き復讐の鬼となる主人公を演じている。感情をあまり出さず、無情に復讐するという意味で悪役的ではあるものの、不器用な父であり、極端ではあるが実は愛深き人という難しい役どころで大変な存在感を発揮している。
『永遠の門 ゴッホの見た未来』
ウィレム・デフォーが肖像画そっくりなゴッホを演じている作品で、デフォーも渋いオジサンだろうと思ったのだが彼はもう70近いのであった。この作品の後半に、マッツ・ミケルセンはほんの1シーンだけ登場するのだが、登場シーンの大部分が、顔がフレームに入りきらないほどのアップであることもあり、とても強く印象に残る。マッツはサナトリウムみたいなところに収容されたゴッホに穏やかに語り掛ける牧師を演じている。
ジェレミー・レナー
え、彼もうそんな年なの?と思った俳優の一人がジェレミー。もう50代なのであった。最近だとアべンジャーズシリーズのホークアイと、ミッション・インポッシブルシリーズのブラントのイメージが強いので、例によってここではそれらとは違う役どころのものを紹介したい。
『メッセージ』
地球外からやって来た謎の宇宙船を巡るSF作品で、ジェレミーは言語学者の主人公とともにこの宇宙船を調査する物理学者という役どころで出演している。アクション映画の印象が強いジェレミーだがこの作品ではマッチョなタフガイではなく学者を演じている。言語学という側面からSF的考察を深めた興味深い作品で、アクションしないジェレミーだけでなくストーリーも楽しめるので冬休みの一本に加えてほしい。
『ウィンド・リバー』
アメリカが抱える、先住民族いわゆるネイティブ・アメリカンとの複雑な事情に関して問題を提起する社会派スリラー。死体の発見から調査を進めていくというミステリ的な構造になっており、謎が解けていくにつれて社会の深い闇が明るみに出てくる。脚本が見事であり、主演のジェレミーを始め俳優陣の細やかな芝居も素晴らしい。繁栄の陰にある先住民族への抑圧と侵略の歴史。この映画はそこから逃げるべきではないという意識の表明である。
眞島 秀和
テレビドラマに眞島秀和あり、と言っても過言ではないほど、かなりの数の作品の出演している。主役級の目立つ役というよりは、脇でスパイスを効かせるような役どころが多い印象だ。むしろチョイ役であってもピリっと印象に残る芝居をすることが多く、さりげなく彼が出ている作品を探すのは楽しい。
『ある男』
事故で死んでしまった夫は思っていたのとは別人だった、という物語。眞島秀和は作中で、死んだはずの人物の兄として、それが別人であることを指摘するという重要なシーンを演じている。この作品はストーリーそのものがとても面白い上、眞島秀和を始め他にも渋めに良い芝居をする俳優がたくさん出演していてとても見ごたえがある。アイデンティティとはなにか、というテーマをサスペンスタッチで描いていて惹き込まれるのでお勧めしたい。
『大怪獣のあとしまつ』
特撮ヒーローや怪獣映画でやっつけた怪獣はその後どうなるのか。フィクションが描かない「その後」を考察したある種のSF作品であり、テーマ性がマニアックなのに超メジャー級で制作・公開されたため、非常に評判が悪かった作品である。が、この作品実は文学的視点で見ると極めて面白い。怪獣の死体が「希望」のメタファーであり、大きすぎる希望が絶望に直結する様が描かれている。文学が好きな人にこそ見てほしい。
内野 聖陽
若い頃からテレビに映画にと活躍している俳優だが、年をとってからの方が高く評価されている印象を受ける。近年印象的な主人公を演じることが増えたので、最近になって名前を知ったという人も少なくないだろう。
『アングリー・スクワッド』
先日公開されたばかりの最新作である。税務署に勤務する堅実な公務員の主人公が、巨額の脱税を行って私腹を肥やしながら裁かれずにいる大富豪を懲らしめるため、詐欺師と手を組んで挑む、というお話。コメディ的要素もありながら裏に隠された熱いエピソードもあり、シリアスかつコミカルという非常に難しい役どころを見事に演じている。意外性のあるストーリーにも驚きがあり、ぜひ見てほしい作品の一つだ。
『きのう何食べた?』
ドラマから映画化された作品で、同じくイケオジ俳優の西島秀俊とのダブル主人公である。大きな事件などは起こらない日常を描いたストーリーだが、小さなエピソードの一つ一つを丁寧に描いていてしっとりと心に残る。丁寧な演出と細やかな芝居が日常の中にある幸せを感じさせてくれる。誰かを愛するってどういうことなのか、この映画はそこに新しい視点をくれる。
ベネディクト・カンバーバッチ
個人的に大好きな俳優カンバーバッチ。ドクター・ストレンジで世界的に浸透したが、かなり幅広くいろんな作品に出演している。エキゾチックなルックスでどんな役でも印象に残る存在感がたまらない。例によって彼もメジャーなキャラクターではない役どころのものを紹介したい。
『ゴッホ 真実の手紙』
マッツのところで紹介したのはウィレム・デフォーが晩年のゴッホを演じた作品であったが、カンバーバッチはもう少し若いころからのゴッホを演じている。この作品はテレビ映画のような体裁のものなのだがAmazonPrimeで見られる。ゴッホは死にまつわる部分がはっきりわかっていないので映画によって描かれ方が異なっているのも興味深い。カンバーバッチは繊細かつピーキーな人物を好演している。
『クーリエ:最高機密の運び屋』
同時期に公開された『モーリタニアン 黒塗りの記録』はシネマの時間で紹介したのでここではこちらの作品を。この作品は冷戦中のスパイ活動を描いたスリリングな作品なのだが、いわゆる諜報機関のプロではなく、一般人を諜報機関が雇い入れてスパイ活動をさせるという図式になっており、なんと事実に基づいている。実に魅力的な映画なのだが、この作品の魅力のかなり大きな部分を、カンバーバッチの芝居が担っていると感じる。
オジサン俳優、と思っていた人がもうほとんどオジイサン俳優だったり、一部は既にこの世にいなかったりと、いつの間にか自分も年をとったのだなぁとしみじみ思った。ぜひオジサン諸氏もオジサンでない人も、この冬はイケオジ俳優に目を向けながら映画を楽しんでほしい。