
二十世紀、地球上で最大のスターと言っても過言ではないマイケル・ジャクソン。エンターテイメント史に燦然と輝くその作品群。本作はマイケルの伝記映画として、主にその活動の前半部分、世界のスターとして君臨し始めた時期までを描く。序盤の彼を苦しめた父親との確執は描かれているが、後年さらに彼を苦しめることになるスキャンダルなどは描かれない。この鮮やかな割り切りによって、本作はマイケルが大事にしていた想いや、パフォーマンスの先進性、ステージの熱狂などを存分に楽しめる内容になっている。一方で1990年代以降に発表された、世界で歌い継がれることになる楽曲群には触れられておらず、マイケル全史とするには続編を待つ必要がある。
マイケルが亡くなって既に15年以上が経過している今、彼の死後に生まれたような世代にもぜひこの映画を見てほしい。作中で彼は何度か、「僕の光で世界を照らさなきゃ」という言葉を発する。世界を一つにし、誰もが幸せになる。彼はエンターテイメントにはそれを可能にする力があると信じていた。世界を照らす光になろうとする想いと覚悟。
ぜひ映画館ならではの音響で、彼が発していた光を全身で体感してほしい。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
マイケル・ジャクソンが亡くなってもう15年以上も経ったという事実にまず驚いた。前代未聞の同一会場連続コンサート『THIS IS IT』を発表し、その開始目前に急死してしまったのがつい数年前のような気がする。死の直後に公開された『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』をはじめ、この間にマイケルに関する映画はいくつも作られた。しかし振り返ってみると、伝記映画としてある程度の期間にわたって彼の半生を描くような作品はこれが初めてである。
本作ではまず、主人公であるマイケル・ジャクソンの印象がかなり本人に近いことに驚かされる。主演のジャファー・ジャクソンはなんと、ジャーメイン・ジャクソンの息子。つまりマイケルの兄の息子、甥なのである。
本作ではマイケルがジャクソン5に加入したあたりからの流れが描かれ、序盤は別の子役、クインシー・ジョーンズとの作品作りがスタートするあたりからをジャファーが演じている。子役の部分もかなり丁寧に描かれていて、ジャクソン5においてマイケルが放った存在感がどのようなものであったのか、スクリーンに収まりきらないほど表現されている。映画の後半は父との確執を超えて一気に世界のスターへと昇り詰めていく様子が描かれ、『BAD』あたりまでを描いて幕となる。
全体的に映画としての割り切りが見事で、エピソードの取捨選択により、マイケルが大きく羽ばたいていく様子にフォーカスして描いている。一方で周辺人物とのやりとりも細やかに描かれ、ボディガードのビル・ブレイや弁護士のジョン・ブランカなど、彼の活躍を支えた人物たちとの交流も垣間見られる。本作がマイケル全史の前半だとすると、ここまではポジティブ・サイドと言えよう。後半にも多くの名曲があり、さまざまなアーティストのコラボレーションなど華やかな要素も多いのだが、有名になりすぎたことで半ば巻き込まれた数々のスキャンダルもある。もし続編があるとして、マイケルにとって負の要素であり、彼を生涯傷つけることにもなったこれらのエピソードは避けて通るのが難しいだろう。伝記映画として晩年までを揃える続編には期待せざるを得ないが、願わくは彼の純粋さに改めて光を当てるようなものであってほしい。