フィルムノワール風のハードボイルドサスペンス。映画の冒頭は明らかにそういう雰囲気だ。ワイルド風味の西島秀俊が主人公として登場し、どうやら殺人事件が起きた、という感じでスタートする。殺されたのは主人公の仲間っぽく、葬儀には同種のワイルドな男性が他にも何人か集まっている。カタギっぽくはないがヤクザっぽくもない。

主人公は家庭に問題を抱えていて、同じく問題を抱えていそうなアシスタントがつく。二人が殺人事件を追うバディものっぽいハードボイルドサスペンスだが、事件の真相に近づくにつれて様子が変わってくる。殺されたのは探偵で、彼が死の直前に追っていた調査案件の方に次第にフォーカスが移っていくのだ。

事件の真相を追うサスペンスのようでありながら、一方でテーマの核は障がい児の問題に置かれる。親子とはなんなのか。愛とか絆といった言葉はきれいごとに過ぎないのか。障がい児医療の現場も緻密に取材して描かれ、物語としては一応の決着を見つつ、問題自体は大きく提起されたまま残る。

簡単には結論の出ない重いテーマをこれ以上ないほどの俳優陣で描く本作は、間違いなく今年最も重要な邦画の一つであると言えるだろう。(映画ライター・ケン坊)

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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探偵が殺された事件を追う、という体裁の中で障がい児の問題を描く問題作である。結論から言ってしまえば、探偵が殺された事件と、本作の中心で描かれる誘拐事件との間には何の因果関係もない。言わば、冒頭で起こる殺人事件はきっかけにすぎず、本当に見せたいのは殺された探偵が追っていた、過去に起こった乳児誘拐事件の方である。

重い障がいを持つ乳児が誘拐され、本当の両親はその子を本当に取り戻したいとは思っていなかった。一方で、誘拐していった側は、その障がいを持つ子どもを9年間も育て続けていた。この事件を追う探偵もかつて障がいを持つ子どもを持っていて、その子は亡くなっているが、その子育てを巡って妻は精神を病んで入院し、健常者である長女との仲は決定的にこじれている。

障がい児の育児がもたらす周囲への影響。きれいごとでは語れない重い現実が浮き彫りにされる。障がいのある弟を持ったばかりに辛い想いを強いられた姉には何の罪もない。

障がいを持つ乳児を誘拐していった犯人が、もっともちゃんと父親であった。悲劇だらけの物語の中で、誘拐された子だけが、唯一ちゃんと幸せだったのかもしれない。

現在、日本社会は数多くの問題を抱えている。特に大きなものが少子高齢化である。一方で、生まれた子どもが重い障がいを持っていた場合、そのケアは十分だと言えるのか。生まれる子どもを増やしたい、という願いの一方で、こうした巨大な問題についてはあまり取り沙汰されていないように見受けられる。この映画はハードボイルドサスペンスの皮を被せてエンターテイメント風を装ってはいるが、巨大な社会問題を提示する問題作であると言える。少子化対策として行われていることはどれも頓珍漢であまり有効ではないが、それ以前にこうした問題はほとんど対策すら取られておらず、それでもなお財源不足が叫ばれている。ジリ貧ジャパンの未来は暗い。根源的に政治を変えない限り、この国はもう現状維持すらできないであろう。